BCPコラム

工事現場の火災事故

また下請け作業員の犠牲が発生!!

昨年から工事現場での火災事例が相次いで発生しています。

2018年7月26日 東京都多摩市唐木田で 建築中のデータセンター(地上3階 地下3階)の地下3階から出火し男性作業員 5人死亡 約40人が負傷(うち25人が重傷)。
鉄筋切断作業中に火花が断熱材に引火したとみられる。
2019年1月11日 東京都港区新橋の高層ビル(アーバンネット内幸町ビル)で 建設工事中の屋上(ペントハウス)で火災が発生し消火にあたったとみられる作業員4人が怪我。 断熱材が燃焼した模様。(TVニュースでは救急隊員に運ばれる罹災者の顔が煤で真っ黒)
2019年2月12日 東京都大田区城南島 マルハニチロ物流センターの5階から出火。 消火にあたったとみられる3人が死亡、一人が負傷。5階真上の屋上で配管の溶接作業をしていた火の粉が5階に落ちて出火した模様。

(注:いずれも報道による情報なので不確定要素あり)

この火災の発生後に下記のような通知通達や講習会で注意喚起を監督官庁等が行っています。

建設現場における火災による労働災害防止に係る厚生労働省の通知等について(情報提供)
消防庁予防課
http://www.fdma.go.jp/bn/0e5b5ef40f78390aad6953c1ff85b4c16848446f.pdf

自主点検結果を踏まえた 建設現場の労働災害防止について
東京労働局 労働災害防止講習会
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000315869.pdf

<安全・安心情報>事業所向けアドバイス 工事中の防火管理
東京消防庁web 東京消防庁
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/office_adv/koujikanri/kanri01.html

記載されている内容をよく読んでください。
またイラストなどもよく見てください。
当然のことが示されておりますがどれにも共通して大きな欠落があります。

これこそが日本の防災教育・訓練の最大の問題です。

初期消火の大問題

消火器を設置する、消火器を増量するなど当然ながら消火器での消火を前提にしています。
完成前の工事現場では火災感知装置、消火装置(スプリンクラー、消火栓)、排煙装置はありません。
すでに設置されていたとしても作動しませんし水も出ません。
天井・壁・床が施工されている場合は密閉空間に近い場所で作業するわけです。
照明も仮設でコードリールで配線されています。火災になれば電線が焼け遮断され、おそらく真っ暗闇です。

この空間ではたして消火器での消火は可能でしょうか。

前回のコラムでも記しましたが、ウレタンのような可燃物は火種が入ってすぐには燃え上がらず、内部である程度溶けだします。この時には煙も炎もあがりません。
先にCOガスなどの不完全燃焼のガスが出始め、火炎と黒煙が上がり始めると一気に爆発的燃焼に進みます。そして瞬く間に煙が充満します。
この煙の中に侵入して火点に近づき初期消火せよというのは、死んで来いと言っていることに等しいのです。

プロの消防士ですら空気呼吸器を背負い呼吸の保護をしなければ火災現場には出場しません。
消火器で初期消火をするためには、煙の中に侵入し火点近くで放射しなければ絶対に消せません。


https://www.youtube.com/watch?v=v4lx4j9aguY&feature=youtu.be

そして消火器では本当に消えないのです。

また、煙を吸った瞬間に呼吸ができなくなります。
この現実を教示しなければ何度でも同じ被害が出ます。
(すでに3回同じことが繰り返されています)
先の通知等を再度確認ください。この煙の怖さの教示が完全に抜け落ちています。
この通知や資料を作製した方は、おそらく一度も火災の煙を吸ったことが無いのではないかと思います。

日本の防災教育は、『火災を出さないように、出さないためには』 の教育です。

それでも火災は起きます。必ず起きます。放火する馬鹿どももおります。
ですから火災が発生したらどうするのか、何を準備するのかを、具体的に啓蒙・教育・装備・訓練が必要です。
これは一般企業・学校・病院・マンション・戸建て住宅すべてに共通します。
特に企業団体は消防法により自衛消防隊組織を作り任命し、火災の初期消火をするように指示します。 一番最初に火炎煙に対応するのは普通の人々の自衛消防隊です。

「消火器で消火せよ!」イコール「煙の中へ入って死ね」なのです。

初期消火を行うということは煙を吸うリスクがあり状況により煙に巻かれるのです。
呼吸保護具無しで対応せよとは安全配慮義務を履行していないことになります。
(安全配慮義務違反⇒民事訴訟で多大な損失)
工事現場の作業員の皆さんに的確な教示訓練装備をしていないのです。
そして犠牲になるのはいつも下請け孫請けの現場の作業員です。
避難の際も煙に襲われます。レスキュー隊が救助してもすでに息絶えているのです。

お父さんの仕事はなんでしょう。無事に家族の待つ家に帰ることです。
仕事を指示するということは、無事に家に帰すところまでなのです。

同じ犠牲が無くなりますように。

(了)

「被災者の声を、より強固な災害対策構築に役立てます」
熊谷 仁 東京営業所長
プロフィール詳細

1989年 コンサルティング業務を開始。 自衛消防隊の教育訓練に重点をおき、発災後時系列による対応の優先順位付けや、BCPを円滑にスタートさせるための現場初動対応(ダメージコントロール)を提唱。現在の災害対策のスタンダードとなっている。また、自身が開発、製造する火災緊急用防煙マスクは、フルフード型としては国内で唯一(一財)日本消防設備安全センターの個別評定を取得している。 1995年から東京消防庁本田消防団員として災害現場へ出場多数。 公益社団法人 日本火災学会 会員、特定非営利活動法人 日本防火技術者協会 会員、火災避難用呼吸保護具技術検討委員会 委員

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