BCPコラム

住宅火災は早期発見から! 住宅用火災警報器には一酸化炭素検知機能を

火災被害を抑える「3 STEP」とは

火災対応を成功させるには[早期発見][早期通報][早期消火]の3STEPが正しく行われることが重要である。

火災の発生を確認し、まずは119番に通報をする。自身の安全が確保できている場合には初期消火を試みる。
このように書き起こしてみれば、単純で当たり前の手順のように感じるかもしれない。

頭の中で、火災の第一発見者になった自分を想像してみよう。
出火場所は自宅リビング。暖房器具をつないでいるコンセントから小さな炎が上っている。きな臭いニオイが鼻をつく。炎の先から黒い煙がわずかに昇っている。
まだ炎はそれほど大きくない。通報するほどでもないと判断したあなたは、消火に用いる水を汲むためにキッチンへと向かう。

さて、このように、火災に遭遇した経験が無くても(無いからこそ)、このようなシミュレーションはできるものだ。空想の炎は上手に消せただろうか?
はっきりと言う。現実で火災に遭遇したあなたは「第一発見者にすらなれない」可能性がある。

「近くで燃えているのに逃げられない」理由

2023年1月24日、死者4人の被害を出した凄惨な住宅火災が起こった。

[茨城新聞クロスアイ] 茨城・行方の火災、4人は焼死 気道にすす、CO検出

茨城県行方市於下の住宅で子どもを含む4人が死亡した火災で、県警行方署は27日、4人を司法解剖した結果、死因はいずれも焼死だったと発表した。4人の遺体から一酸化炭素(CO)が検出され、気道内にすすが付着していた。火災発生時は生存していて、就寝中に煙を吸い込んだとみられる。遺体に目立った外傷はなかった。

同署などによると、4人の遺体は普段寝ていた居間兼寝室で並ぶように見つかった。室内はコンセント周辺が激しく燃え、火元になった可能性がある。

この火災を読み解くポイントは3つである。

  • ①死因は焼死
  • ②死亡した4人は火元の部屋で寝ていた
  • ③遺体からは一酸化炭素が検出された

順番に解説する。

①死因は焼死

記事本文にもあるように「被害者は火災発生時には存命であり、この火災によって亡くなった」というのが焼死という言葉の持つ意味合いだ。
「焼死」については過去のコラムで詳しく解説している。
[災害対策の用語解説]焼死ってなに?

②死亡した4人は火元の部屋で寝ていた

被害者たちが寝ていたのは、出火元とみられているコンセントのある部屋だという。
炎が上っているすぐ近くで、気がつかないまま全員が眠り続けるということがあるのだろうか。
もしくは、なんらかの理由で「出火に気がついていたのに逃げることができなかった」のだろうか。

③遺体からは一酸化炭素が検出された

実は、この一酸化炭素(化学式:CO)こそが、火災(特に住宅火災)において、最も恐るべきリスクなのである。

一酸化炭素とは、有機物が不完全燃焼した際に発生する、人体にとって有害な燃焼生成物(有毒ガス)だ。
広く知られる特徴としては、[無色][無臭][無味][無刺激性]である点が挙げられる。
ニオイも味もなく、目には見えないとなれば、生身の人間では一酸化炭素の発生を感知することはほとんど不可能である。

本当に怖い急性一酸化炭素中毒

濃度の高い一酸化炭素を短時間に吸引すると、人体は急性の一酸化炭素中毒に陥る。
肺に取り込まれた一酸化炭素は、本来であれば酸素と結びつくはずだった血中ヘモグロビンの多くと結合し、この結果、体内に酸素が行き渡らない状態となる。いわゆる内部窒息(体内酸欠)と呼ばれる状態である。
驚くべきことに、一酸化炭素の血中ヘモグロビンへの結合力は、酸素の約200倍といわれている。

急性一酸化炭素中毒の初期症状には、頭痛、嘔気、倦怠感、めまいなどが見られることが多い。
また、進行するにつれて胸痛、呼吸困難、運動失調、判断力低下、昏睡などの中枢神経症状が出現、最終的には心肺機能が停止し、脳死から心停止に至る。

一酸化炭素中毒の症候
初期頭痛、悪心・嘔吐、めまい、倦怠感
進行期循環器系胸痛、呼吸困難、失神、心電図異常
中枢神経系判断力低下、運動失調、意識障害
その他皮膚の血色良好
末期ショック、痙攣、昏睡
死後サクランボ色(cherry red)の死斑
遅発性神経障害判断力低下、人格・行動の変化、記憶障害、見当識障害、 無欲・無関心、失認・失行、パーキンソン症候群
[引用] 長野救命医療専門学校 救急救命士学科 瀧野 昌也 氏 [急性一酸化炭素中毒(2020)]

ここまでの情報を整理しよう。

火災初期の不完全燃焼状態では煙とともに多くの一酸化炭素が発生する。一酸化炭素は発生したことに気がつきにくく、吸引し続けると身体の自由を奪う

いかがだろうか。
もし出火したのが日中で、あなたが起きて活動しているのであれば、身体に出現した急性一酸化炭素中毒の初期症状からいち早く危険を推測し、火災の発見に辿り着く可能性もあるかもしれない。

しかし、これが夜間、就寝中の出来事だったならば。
眠った状態で身体機能は麻痺し(逃げられない)、意識を喪失(気づかない)。
そのまま火災に巻き込まれることは想像に難くないだろう。

これこそが、「第一発見者にすらなれない」ケースである。
そして、このようなケースは、国内において続出しているとみられている。

住宅火災の実態と火災警報器の重要性

事例として取り上げたように、住宅火災の被害は、火災対策の大きな課題とされている。

データによれば、令和元年中の住宅火災の件数は総出火件数の約3割であるものの、住宅火災による死者数は総死者数の約7割を占めているという。

火災死者の約7割は住宅で発生!
[数値参照] [総務省消防庁] 火災死者の約7割は住宅で発生!

別のデータでは、住宅火災が発生した時間帯でもっとも多いのは「18時から20時の間」次いで「16時から18時」と、火気を使用する夕食時にもっとも火災リスクが高まることがわかる。
また、「火災発生に気が付きにくい」夜中から早朝にかけても、やはり多くの割合で火災が発生している。

平成27年度 火災の実態
[画像引用] [消防庁予防課] 平成27年度 火災の実態

本稿冒頭で火災対応の3STEPを紹介したが、その第一段階である[早期発見]のための備えといえば、火災警報器の存在が挙げられるだろう。

住宅火災の犠牲者を減らすため、総務省消防庁では、平成23年6月1日からすべての住宅に対し設置を義務づけた。
これは、 すでにスプリンクラーなどが設置されている共同住宅などを除き、戸建て住宅、共同住宅、店舗併用住宅など、文字通りすべての住宅が対象となっている。

広く普及している住宅用火災警報器には大きく分けて2つのタイプがある。

<煙式(光電式)> 寝室・階段室・台所など
煙が住宅用火災警報器に入ると音や音声で火災の発生を知らせます。
※消防法令で寝室や階段室に設置が義務付けられているのは煙を感知する(煙式)住宅用火災警報器です。

<熱式(定温式)> 台所・車庫など
住宅用火災警報器の周辺温度が一定の温度に達すると音や音声で火災の発生を知らせます。
※台所や車庫などで、大量の煙や湯気が対流する場所等に適しています。

[引用] [総務省消防庁 ] 住宅用火災警報器Q&A

つまり、火災が起これば「熱」か「煙」のいずれかまたは両方が発生するのだから、それらを感知して早期に知らせることができれば、火災での逃げ遅れを減らすことができるという考え方である。

火災100件あたりの死者発生件数
火災100件あたりの死者発生件数
1件あたりの損傷床面積
1件あたりの損傷床面積
1件あたりの平均損害額
1件あたりの平均損害額

[画像引用] [東京消防庁] 住宅用火災警報器の設置で住宅火災の被害軽減!

実際に、令和元年中に起きた住宅火災において、住宅用火災警報器を設置した住宅と設置していない住宅を比較すると、火災 100 件当たりの死者発生件数は約3.4倍、1件あたりの焼損床面積が約4.5倍、1件あたりの平均損害額は約3.6倍となっている。

住宅用火災警報器を設置することで、火災発生時の死亡リスクや損失の拡大リスクは大幅に減少することがわかる。

住宅用火災警報器には一酸化炭素検知機能を

さて、ここで、一つの実験映像を紹介する。 4分ほどの短い動画なのでぜひご視聴いただきたい。

[神戸市消防局Youtubeチャンネル] 煙・一酸化炭素の流動実験(ドキュメンタリー編)

この実験が明らかにしたのは、煙に含まれており煙とともに流れてくるとこれまで思われていた濃い一酸化炭素が、建物の構造によっては、煙よりも早く火元から離れた別室に到達する可能性だ。

つまり、現在主流である熱・煙式の住宅用火災警報器だけでは、住宅火災による死者の減少には限界があるのではないかという問題提起である。

現行の消防法では、住宅用火災警報器について「煙を感知し、火災の発生を報知する機器であること」と定められているだけである。 ここに、火災の実態に法令が追いついていない現状がある。

この課題に対して、すでに国内のガスセンサを取り扱うメーカーからは、一酸化炭素検知機能を併せ持つ住宅用火災警報器が販売されており、一般にも購入することができる。

[新コスモス電機株式会社] PLUSCO(プラシオ)製品ページ

この製品では、先に一酸化炭素濃度を検知した場合において、煙に対するセンサーの感度を上げることで火災の早期発見をサポートする機能が搭載されているという。

なにを隠そう、筆者は自宅の台所と寝室の2箇所にこの製品を設置している。 旧来の住警器と比べれば価格は若干高いものの、火災対策を真剣に考えればこのような機能の必要性は明らかであり、自分や家族の安全のための当然の選択と考えている。

火災現場においては、出火状況も被害者も千差万別で様々なケースがある。
死者をひとりも出さないという目標を掲げることは、理想論であり現実的ではないのかもしれない。
だが、少なくとも人命が関わる事象においては、理想に近づくための探究は継続しなければならないはずだ。

火災対応の第一歩は[早期発見]から。 この機会に、自宅や職場の火災警報器の見直しを行ってみてはいかがだろうか。

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