第二回:あれこれ心配なマンション理事長の安眠のために

起こるとわかっている災害は「リスク」ではない

最初に読者のみなさんにお聞きします。
「あなたのマンションの災害リスクには、どのようなものがありますか?」
と訊かれたら、何と答えますか?

第1回の「安全なマンションとは?〜何から始めるか?〜」で書いたように、日本に住んでいるのであれば、ほとんどの土地で地震と台風から逃れる術はありません。
リスクとは「起こるか起こらないかわからない」というレベルのものです。 必ず降りかかってくるとわかっている災害をリスクとは言いません。
私は、それを「避けがたい現実」と呼びます。

地震と台風は「いつ起こるかわからないリスク」ではなく、「いつかは必ず直面する避けがたい現実」であると思ってください。

マンションの災害リスクとは?

災害リスクを考える上では、視点を決めることが大事です。
私は次の5つの視点でマンションの災害リスクを考えることをお勧めします。
(1)環境のリスク、(2)人のリスク、(3)資産のリスク、(4)体制のリスク、(5)資金のリスク、という5つです。ひとつ一つ見ていきましょう。

(1)環境のリスク:あなたのマンションはどのような立地条件に建っていますか?

建物に大きな被害を与える、二次災害の多くの原因がこれらです。何が起きそうか?という原因を知らずに、効果的な対策は考えられません。例を示します。

山、崖が近くにある・・・土砂災害リスク
川が近くにある・・・河川氾濫リスク、液状化リスク
海が近くにある・・・強風リスク、津波リスク、など

また幹線道路が近いと、災害時の優先道路指定により、車が使えなくなるリスクも考えられます。

また、建物の耐震診断等は済ませていますか?建物そのものの耐震性能が低い場合は地震の揺れそのものがリスクになります。近隣に古い木造住宅が密集している地域があれば、類焼リスクもあります。

災害そのものも怖いですが、災害が引き起こす二次災害は、主に環境に起因します。これらの発生リスクを見定めておくことは、対応策を考える上でとても重要です。

(2)人のリスク:災害でまず守るべきは人の命です。

マンションで災害が起こったときには、体力が弱い人の安全確保が最優先です。

マンションの住人は、みな自力で判断して避難できる人ばかりですか?
ご老人や妊婦・幼児・病人・障害者など、自力で避難することが難しい人は、どこの部屋に何人いるか、把握していますか?

自分たちのマンションに、災害弱者と呼ばれる体力の弱い人がどれだけいるかを知らないままでは、人命保護にかなりのリスクがある状態といえます。

災害からの直接的な被害を防ぐことはほぼ不可能ですが(揺れも津波も人には止められない)、初期の消火、人を避難させること、応急救護することは住人だけでもできます。最低限でも初期消火・避難・救護ができる体制は必要です。

(3)資産のリスク:人命の次に守るのは、マンションという資産そのものです。

そもそも躯体が地震に耐えなければすべてが終わります。耐震化・耐火化は終わっていますか?
マンション内の共有部分の設備も重要です。転倒しそうな物や人に危険が及ぶような設置物はありませんか?

また大きな地震の場合はエレベーターが停止します。あなたのマンションのエレベーターは、地震時にはどのような仕様になっているか、把握していますか?
(例:震度5弱で最寄り階に停止、その後は一旦電源が停止、など)

いざ問題が起こったときの連絡先(マンション管理会社、エレベーター保守会社)は把握していますか?すぐ連絡できますか?どのように被害状況を伝えますか?(口頭?決められた書類?誰が?いつまでに?)

躯体と設備は、資産そのものです。まず考えるべきは、災害への耐性を高めること。次に考えることは、それでも被害が起こってしまった場合の復旧方法です。
住人自身で復旧できるものはほとんどないので、管理会社・保守会社にいざというときに迅速に連携できることが重要です。

(4)体制のリスク:災害はときに人の失敗が原因で人災になります。

そもそもあなたのマンションには、理事会で定められた災害対応プランを用意していますか?
自主防災組織はありますか?メンバーには十分な訓練を行っていますか?
災害対策本部を立ち上げる体制はありますか?
災害備蓄品は購入していますか?
災害対応の住人訓練をやっていますか?災害対応のプロに指導してもらったことはありますか?
また行政や近隣の町内会とは、どのような連絡体制ができていますか?
近隣で火災やけが人が出た場合、マンションの自主防災組織は対応しますか?できますか?

災害そのものが起きることを防ぐことは不可能なので、事前の準備は非常に重要です。
災害対応の体制強化をしていないことは、マンション災害の最大のリスクです。

(5) 資金:被災後の復旧はすべてお金がかかります。

そもそも管理組合の修繕積立金はじゅうぶんに確保されていますか?カツカツの状態だと、復旧にお金がかかって大規模修繕の予算が足りなくなる、などという事態を招きかねません。
また地震保険には加入していますか?どのような特約が付いていますか?免責事項はじゅうぶんに確認してありますか?

私が理事長を務めた海辺に立地している某マンションでは、あるとき、台風の強烈な波・風のパワーで1千万円近い被害が出ました。
さっそく損害保険を請求したのですが、査定はなんとたったの10万円!
これでは修繕積立金に手を付けざるを得なくなる。できればそれを避けたいと思い、当時の損保会社に査定の見直しと面談による説明を依頼しました。

その結果は…別項で書きます。
マンションの災害リスクをまとめましょう。

マンションの災害リスク…まとめ

さて、5つのリスクについてはご理解いただけたでしょうか?
「マンション管理組合のための震災対策チェックリスト( 公益財団法人マンション管理センター)」の5ページには、20個のチェック項目があります。

1.命を守り、被災後の生活を維持するために必要な備え(1)★★★住民が自宅で備える“もの”、“こと”のリストをつくって徹底する
(2)★★★地震発生直後にどう行動するかマニュアルをつくって居住者に徹底する
(3)★★★震災発生を想定した防災訓練を実施する
(4)★★★近隣グループで「互助」できるような関係をつくる
(5)★★マンションで備えるもののリストを作成し実際に備える
(6)★★地震発生直後の役員の行動マニュアルをつくって準備する
(7)★★区分所有者、居住者、要援護者の名簿をつくる
(8)★★居住者の安否確認体制をつくる
(9)★★近隣や行政とのつながりをつくる
(10)非常時の区分所有者、居住者への情報伝達の方法を確保する
(11)居住者の救助・救護体制をつくる
(12)管理組合としての備蓄・避難所運営体制をつくる
(13)敷地内でのごみ保管体制をつくる
2. できるだけ早い復旧のために必要な備え(1)★★★竣工図書、修繕履歴等を整備する
(2)★★震災被害を受けた場合の復旧資金について考える
(3)被害状況を迅速に把握し対策ができる体制をつくる
(4)被災時の緊急対応工事等の合意形成について考える
3.建物・設備の被害を最小限にするための備え(1)★★★建物の耐震性を確認のうえ、耐震診断を実施する
(2)★★設備の耐震改修工事を実施する
(3)建物の震改修工事を実施する

残念ながらこのチェックリストは、概要の項目としては使えますが、これだけでは実務としての防災には足りません。
次回からは、それぞれのリスクについて、詳しく見ていきます。まずは環境のリスクについて考えましょう。