激甚災害指定を受けた「平成30年7月豪雨」にて被害を受けられたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈りいたします。
筆者は子供時代の10年間を倉敷市で過ごしました。
真備地区から数キロしか離れていない鶴の浦という地域に住み、高梁川を毎日眺めて小学校に登校していました。そのため、今回の倉敷市真備町の洪水が、他人事には思えませんでした。
よく言われるように、岡山は自然災害が少ない土地です。
しかしながらこのたびの豪雨で氾濫した小田川は、歴史的に小規模な氾濫を繰り返してきたことが記録に残っています。
【参照: ウィキペディア:小田川(高梁川水系)】
それなのに、なぜこれほどの犠牲者がでてしまったのか?と思うと、残念でなりません。
先日、国土交通省に残っている小田川の水位変化のデータを見ていて、「もしかすると命を救う余裕が5時間ほどあったのではないか?」ということに気づきました。
この方法は、河川に氾濫危険が迫ったときの一般的な避難方法になると考えたので、本日公開いたします。ー 目次 ―
平成30年7月豪雨の概要
Twitterに投稿されたつぶやき
ハザードマップは正しかった
「川の防災情報」で命を救え!
避難できたかもしれない5時間
平成30年7月豪雨の概要
6月28日から西日本一帯に降り出した雨は、約10日間で通常の1ヶ月間の雨量を遥かに超える降水をもたらしました。各地で記録した降雨量は次の表をご覧ください。
県 | 住所 | 観測場所 | 降水量 | 観測期間 |
高知県 | 安芸郡馬路村 | 魚梁瀬 | 691.5mm | 6日16時50分まで |
高知県 | 長岡郡本山町 | 本山 | 602.0mm | 7日10時50分まで |
高知県 | 香美市 | 繁藤 | 484.0mm | 6日10時30分 |
岐阜県 | 群上市 | ひるがの | 472.0mm | 7日11時20分まで |
佐賀県 | 佐賀市 | 北山 | 464.5mm | 6日16時10分まで |
Twitterに投稿されたつぶやき
その結果、倉敷市真備町では戸建住宅の2階の庇まで水がかぶるような水害が発生しました。
ニュースとかで全然取り上げられないんで、これが今の現状です。
連絡取れない人とか、真備町の人、少しでも助かるように行動して pic.twitter.com/xbqoDvOMCS— りゅーた (@ryu_kendo0301) 2018年7月6日
また広島市の広い地域で、山崩れによる土石流が発生、家が押し流されたり道路が寸断したりという被害が発生しました。
おかあが様子を見たいけんて絵下山入り口の通行止めを突破してみたのね
絵下山入り口のとこから焼山と熊野で分かれる昭和入り口、全滅しとった件
復旧どんくらいかかるんじゃ?? pic.twitter.com/DAaGILWHmS— ひかるんば (@run_ex24k) 2018年7月7日
Twitterでは、水害等が発生した直後には他にも「助けてください!」という悲惨な叫びにあふれていました。
ハザードマップは正しかった
倉敷市では、各水系で発生しうる災害リスクに対して、各種のハザードマップを発表しています。
(参考:倉敷市防災危機管理室ハザードマップ http://www.city.kurashiki.okayama.jp/1870.htm)
中でも河川氾濫が発生した真備町のハザードマップは、実際の水没エリアと比較すると、ほぼ予測が正しかったことが判明しました。
ご覧の通り、予測エリアと水没エリアがほぼ重なっています。
そしてこのエリアは、ウィキペディアによれば、それほど遠くない過去に数回の河川氾濫が起こっています。
「1972年7月中旬、昭和47年7月豪雨で氾濫し、流域の岡山県部分のうち3.96km2が浸水、床上625棟・床下322棟の建物被害があった。1976年9月の昭和51年台風第17号で、同じく3.89km2・床上873棟・床下1034棟が水に浸かった。1979年・1981年・1985年・1998年にも洪水による浸水被害が生じた。」
【参照: ウィキペディア:小田川(高梁川水系)】
歴史の経験と正確極まりないハザードマップがあったにもかかわらず、死者61名(2018年7月25日現在)を出してしまったのです。
では、真備町の住人のみなさんが助かる方法はなかったのでしょうか?
方法はあります。
私は、河川の氾濫危険が迫ったときに命を救える方法が、たったひとつだけあると考えています。
「川の防災情報」で命を救え!
みなさまは国土交通省が運営している「川の防災情報」というホームページをごぞんじでしょうか?
国土交通省 川の防災情報 https://www.river.go.jp/kawabou/ipTopGaikyo.do
トップページには左側に現在の降雨状況、右下には日本の模式図が表示され、地方ごとに彩色されています。それぞれの色は洪水予報のレベルを表しており、たとえば黒は河川氾濫が発生した地域があることを表しています。
個別の河川の状態も表示できます。
このような断面図で、水位の状況がわかりやすく表示されます。
このスクリーンショットを撮ったときは、氾濫が発生してしばらく時間が経ち、水位が下がり始めたときのものです。
水位の変化は、グラフで見ると変化がよりわかりやすいです。
たとえば、今回の氾濫をもたらした小田川の水位変化は、実際はこのようでした。
グラフは、7月6日24時を過ぎたあたりで氾濫危険水位を大きく超えて、このあたりで氾濫が始まったことを示しています。
このグラフは、データの欠測があったため飛び飛びになっています。
そこで私は、欠測となっている値を前後の中間になるように推定したうえで、水位が急に上がりだした7月6日19時頃から氾濫が始めった同日夜半までをグラフ化してみました。
それが次のページの図です。
この図には、気象庁が発表した洪水予報と、自治体である倉敷市が発表した避難情報もマッピングしてあります。
この図を見ると、今回の氾濫に至った時間経緯がわかります。
避難できたかもしれない5時間
自治体は河川の水位という「結果」を確認して避難情報を出します。
そのため、今回のケースでも、倉敷市は「氾濫危険情報」を確認して、避難指示を発令しています。
このケースでは、不幸にして真備町北側地区に避難指示が発令されたのは、氾濫が確認されるわずか4分前でした。
( 東京新聞「避難指示、決壊把握4分前 西日本豪雨で倉敷真備町」http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018071001002377.html)
この事実は、自治体の避難情報を待っていては、逃げ切れない=命に危険が及ぶことがあるということを示しています。
では、氾濫危険は事前に察知できないのでしょうか?
このグラフの19時からの、線の傾きに注意してください。
この場合ではほぼ直線のグラフになっており、「このまま降り続くと23時ぐらいに水位ははん濫危険水位を超えて5mになるかもしれない」という推測が可能です。
われわれ一般人が手にできる情報はこれだけです。つまり「川の防災情報」で水位変化のグラフを観察して、このままだとxx時頃に氾濫する可能性がある、と判断するしか方法はありません。
このグラフを見ると、5時間ほど避難できる余裕があったのではないか?と慚愧の念に囚われます。
(私自身、小田川の水位変化のグラフを見たのは、氾濫発生のニュースを知ってからでした)
以下、河川氾濫から命を守る方法を簡単にまとめます。
天気予報を確認する
大雨特別警報など、異常な降雨の可能性があることを知る。
「川の防災情報」を確認する
降雨が始まったとは、自宅近くの川の水位変化を定期的(最低でも1時間おき)に確認する。
「氾濫する予想時刻」を予測する
グラフの傾きから、氾濫危険水位を超える「氾濫する予想時刻」を自ら設定する。
例:今回の真備町の事例では、たとえば「7日24時」と設定する。
「避難の所要時間」を設定する
自分で設定した「氾濫する予想時刻」までに安全に避難できるよう、避難所・高台への避難完了のための時間を見積もる。
例:「老人を連れて逃げるので2時間」と設定。
「避難開始の最終期限」を決める
次に、見積もった「避難の所要時間」を「氾濫する予想時刻」から引き算して「避難開始の最終期限」を決める。
例:氾濫する予想時刻「7日24時」から避難の所要時間「2時間」を引いて、避難開始の最終期限を「7日22時」とする。
避難準備を始める
その最終期限が来る前に、十分な余裕を持って避難できるよう、避難準備を開始する。
例:避難開始の最終期限が22時だからといって、そこまで待つ必要はない。危険だと判断したら、一刻も早く避難を始めること。
最後に、河川氾濫で亡くなる方が、日本でこれ以上増えないことを祈ります。
(了)