2017年9月10日(日)16:20頃、小田急線「参宮橋~南新宿」間で、新宿行き各駅停車(3000形3次車、8両編成)が、線路沿いの火災現場直近(東京・渋谷区代々木の3階建てのボクシングジム)に8分間も停車する事態が発生。乗客約300人は線路に降りて避難し、けが人はいなかった。火は約1時間半後に消し止められた。

今日現在、消防側から、小田急線火災(仮称)についての詳細は公式発表されていないと思われるが、小田急電鉄の広報担当者によると、16時09分頃、現場活動中の消防関係者の依頼で近くに居た警察署員が列車非常停止警報装置ボタンを押し、電車が非常停止。火災現場の真横に位置した7号車(新宿寄りから2両目)の屋根に火が燃え移った鉄道沿線火災による列車火災が発生した。

今回は、防災分野を中心とした技術開発事業を行っているFCR株式会社http://www.fcr-corporation.co.jp/の「鉄道の人的災害対応特別指導官」として、沿線火災対応について考察してみた。

1、小田急線火災事故の時系列は下記の通り:
16時09分:現場の消防関係者の依頼で警察官が踏切の非常停止ボタンを押す
16時11分:列車が自動停止、運転士が踏切上の安全確認に向かう
16時19分:列車を移動させようとしたが、屋根への類焼を認め、消防の指示でただちに停止
16時22分:乗客約300名全員の避難誘導を開始する
16時42分:乗務員が線路上を誘導し、避難完了
現場活動中の消防関係者が警察官に電車の緊急停止を要請した理由は、「火災現場に接近する電車に延焼しないように電車を未然に停めるため」と「線路の架線側から消火活動をしたいので、電車を止める必要があった」という2つが報道されている。

また、緊急停止した後、沿線火災の火炎が列車車両に燃え移りそうだったことから、運転士が列車を約123メートル進ませて停車したが、火災現場の真横に7両目の車両屋根に火が移っているのが確認されたため、列車を再び停止。

16時22分、乗務員が約300人の乗客に対し、屋根に火が燃え移った車両と離れた最後方の車両から避難するようアナウンスし最後尾の車両と先頭車両から、乗客を線路上に降ろしての徒歩による避難誘導を始めたそうだ。
小田急電鉄の乗務員や現場関係者により、すべての乗客の避難が確認できたのは、最初の緊急停止から約30分後の16時4

乗客は足下の悪い線路を歩いて避難し、けがをした人はいなかったようだが、この火事の影響で、小田急小田原線は新宿と経堂の間の上下線で5時間余りにわたって運転を見合わせ、小田急電鉄によると約7万1000人の乗客に影響が出たそうだ。

3、沿線火災における消防活動上の注意
沿線災害(沿線火災、水害、地震、テロ)が鉄道事業へ与える列車火災、脱線、有毒ガス発生などの2次災害は、平日の通勤時間などに発生すると場合によっては、一度に、数百名の死傷者を出す可能性があるため、現場関係者への指示は、2次災害の危険想定とすべての乗客の避難誘導までをしっかりとリスクビューイングした内容を伝える必要がある。

■↓東京圏における主要区間の混雑率(発表:平成26年度 国土交通省発表 / 提供:セレクトラ・ジャパン株式会社)
事業者名/線名/区間/時間帯/編成/本数 (両・本) /輸送力 (人) /輸送人員 (人)
https://selectra.jp/sites/selectra.jp/files/pdf/001099727.pdf

■↓主要路線の混雑率 – 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/tetudo/toshitetu/03_03.html

たとえば、今回の小田急線火災が発生した、「参宮橋~南新宿」区間の架線には、直流1500V、交流電化区間なら在来線でも2万Vという高圧電流が送電されている。

もし、沿線火災発生時、延焼方向に電車運行上の必要な設備等が有り、通電した架線などの近くで消火活動をすることがあれば現場活動隊員にとって、大変、危険な活動環境となる。

今回の小田急線沿線火災の場合、延焼危険大の可能性を考慮し、迅速に電車の送電の停止などについて鉄道側との連絡や確認をとったのかなどの消防対応は公表されていないが、万が一、電車を停止させて線路側からの消火活動が通電状態にも関わらず、始まっていたならば、消防隊員だけでは無く、避難する乗客にも感電などの2次災害を与えていたかもしれない。

■↓警防活動時等における安全管理マニュアル
地下鉄火災については60ページを参照
https://www.fdma.go.jp/neuter/topics/anzenkanri/pdf/manual.pdf

■↓「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準」のうち
地下鉄道の火災対策に関する解 釈基準の解説
http://www.fdma.go.jp/html/data/tuchi1612/pdf/161227yo264-b.pdf

また、鉄道各社によって、「列車非常停止警報装置」「車内非常通報装置」「踏切支障報知装置」等、非常時に列車を停止させるための装置やボタンを押した後の各社の対応マニュアルなどが異なるため、管内の各鉄道会社へ、それぞれの対応手順などを確認されることをお勧めする。

対応手順によって、出動場所が異なったり、現場対応に必要な消火栓からの取水位置、または、線路へホースを渡す活動の必要性も考えられ、管轄の常備消防だけで無く、地元消防団との連携訓練も必要になると思う。

3、列車火災による有毒ガスの発生など人体への危険
電車車両内で火災が発生した場合、下記のビデオなどにもあるように乗客のほとんどは避難を始めるが、一部の乗客はスマートフォンなどで火災の動画撮影を始める。もし、これが爆発前の導火線的な火災であったら、直近の撮影者は爆発による重症、または、死亡することが予想される。

爆弾では無く、放火であったとしても、火災が拡大延焼し、鉄道施設内が濃煙に包まれれば、一酸化炭素やさまざまな有毒ガスの発生を吸引することにより、その場で次々に倒れたり、逃げ遅れが多数発生し、鉄道会社関係者や消防・警察等の消火・救助対応関係機関の活動にも大きな支障を来す。

小田急電鉄広報課によると、車両のステンレスボディ部分は燃えないが、直接、窓に火炎が吹き付けられるような状態になれば、窓が割れて車両内のシートや広告、乗客の衣類や持ち物などに延焼する危険性が有ること。

列車車両内の燃焼物や塗料等の構成材料によっては、量と材料の特性にもよるが人体に危険な有毒ガスを発生し、避難が遅れれば第三次に繋がる恐れがある。

■↓材料別燃焼発生時の有毒ガス 17ページから
http://www.urethane-jp.org/topics/doc/nanshitsu_poly_qa.pdf

屋根一面は、鉄道基準にあった難燃性で厚さ2~3センチの不燃性ポリウレタンが塗られていて、落雷などの影響を避けるための絶縁と防水性を高めるための屋根材だと報道されているが、7両目に乗っていた乗客の体験情報によると延焼した車両内には喉に立つような化学性の刺激臭が漂っていて、その臭いに息苦しさを感じたと語っている。

■↓ウレタン系材料による初の「不燃材料」
国土交通大臣認定取得について
http://www.sekisui.co.jp/news/2014/1244359_20127.html

下記のビデオでは、屋内消火栓や消火器設備が近くに無かったからなのか、衣服への着火により、何人かがホームに倒れているが、周りに居た乗客が衣服を脱いで火を叩き消しているのがわかる。

将来的に、コスト面が問題だが、車両内外に用いられるすべての構成材料、シート、床材、つり革、広告や塗料等は有毒ガスを発生しないものが求めらそうだ。また、初期消火活動のために運転士や乗務員のコートや上着類の不燃化、消火活動用革手袋の装備、初期消火活動用の防煙マスク、非常用消火ブランケット(防炎シート)等の各車両への積載なども鉄道防災関係者により、アドバイスされている。

現在、鉄道災害対策ワークショップを主要鉄道会社関係者や警備会社に行っているが、乗務員と運転手、駅の警備員だけでは、災害対応人員が少なすぎて、災害発生現場への駆けつけ時間が遅れたり、初動対応が遅れることで、多くの犠牲者を出してしまう可能性がある。

車両内のドア上部にある液晶モニターや吊り広告の空いたところに、災害種別や季節に応じた初動対応内容や地震の際の自主避難の方法について等の災害広報をすることで、利用客に災害対応への気づきときっかけを与え、自助・共助の大切さを感じていただく機会になると思う。

災害発生時、助かる命を助けるためには、まず、自分の身を助けて、周囲の人を助けることで多くの人が助かると思う。

あと、鉄道施設のバリアフリーは災害時の避難に大きく役立つこと、また、車いす利用者、ベビーカー利用者、災害発生時避難に支障のある方々、障がい者などの優先乗車などのモラルの定着も災害発生時の共助避難の際に役立つと思う。

日常的に多く利用する施設や設備ほど、利用者自らがモラルを高めて、これからの日本の災害対応能力を向上させ、未来の子供や大人達の安全生活を築く事が、今生きている私たちの責任であるように感じる。

日常的に多く利用する施設や設備ほど、利用者自らがモラルを高めて、これからの日本の災害対応能力を向上させ、未来の子供や大人達の安全生活を築く事が、今生きている私たちの責任であるように感じる。