BCPコラム

もしもトンネル火災に遭遇したら 「車の中にいれば安全」はホント??

大規模被害を引き起こすトンネル火災

中央日報 「トラックから出火、パーンと爆発…830mトンネル全体が真っ赤に」=韓国

  2022年12月29日、韓国ソウルの高速道路内トンネルで火災が発生。本稿執筆時点で5人が死亡、37人が死亡した。
  SNSなどでは激しく燃えさかるトンネルの様子を投稿するユーザーが相次いでいる。

日本でも、過去10年で平均して30件程度の道路トンネルでの火災事故が発生している。

トンネル内車両・施設火災件数の推移

(備考)「特殊災害対策の実態調査」により作成
(備考)「特殊災害対策の実態調査」により作成
画像引用 | 総務省消防庁[令和3年消防白書]

トンネルは出入口が限定された閉鎖性の高い場所であり、ひとたび火災が発生すれば、またたく間に煙、有毒ガスが充満し、避難することが困難となる。
また、事故の影響で発生する渋滞等の要因から、消防、救助隊の到着にも時間を要する場合が多く、大惨事につながる恐れがある。

トンネル火災に遭遇した場合の対処法について、火災の覚知から避難開始までの対応を解説する。

トンネルに入る前に火災発生を知った場合の対処方法

トンネル内で火災が発生したときは信号機や警報板にその旨が掲示されるので、その情報に従いトンネル手前で停車する。

トンネル入口情報板の例1
トンネル入口情報板の例1
トンネル入口情報板の例2
トンネル入口情報板の例2

画像引用 | 名古屋電機工業株式会社 [高速道路向けシステム]

トンネル内には絶対に進入してはいけない。自身が火災に巻き込まれたり、トンネル内からの避難者との接触事故に発展したりする恐れがあるからだ。
停車するときは、左側(左側に駐車できないときは右側)に車を寄せ、警察、消防等の車両が通行できるように中央部を空けておく。停車後は警察やパトロール隊の指示に従って行動しよう。

トンネル内で火災現場付近にいた場合の対処方法

前方に火災車両を発見した場合だが、この火災車両を追い越すことは絶対にNGだ。 火災車両の先は煙が充満し、前方が全く見えなくなっている可能性がある。
無理に先を急ぐと追突事故の恐れがあるため、火災車両を見つけたら、必ずその手前で停車しよう。

[画像引用] 首都高ドライバーズサイト | もしもトンネル火災に遭遇したら

停車場所は、緊急車両が通行できるよう道路中央部を避けて左右に車を寄せる。
また、前後の車両との間隔をあけておくことや、避難者の妨げにならないよう非常口の前を避けることも覚えておく。

  火災の炎や煙が視認できる場合、そのまま車の中に留まっていると、煙に巻かれるため非常に危険だ。すぐに車を降りて、火災から遠ざかるように避難を開始しなければならない。

車を離れる際は、車を左右に寄せてサイドブレーキを引き、エンジンを停止する。
その時、ドアロックはせずに、エンジンキーは運転席などのわかりやすいやすい場所に残しておくこと。

これは、緊急車両や救援車両の通行の妨げとなった場合に、車を移動させられるようにしておくためのものだ。
仮にロックがかかっている車が救助活動などの妨げになる場合、道路管理者は車の所有者の同意なしに、車を破損し移動させることができると定められている。(災害対策基本法 第76条の6 第3項)

ロックを掛けないことで車両盗難のリスクはあるが、いずれにしても緊急時には人命優先。車両の無事はどうしても二の次となるため、盗難の可能性に関してはある程度諦めざるをえないだろう。

もし余裕があれば、転売の対策として、車検証を持ち出しておくとよい。
緊急時の車両からの離れ方については、火災だけでなく、地震や他の災害、事件においても共通となるため、ぜひ覚えておきたい。

実はキケン!火災現場から離れた場所にいた場合の対処方法

車からの離れ方は先程と同じだが、 意外にも逃げ遅れが発生しやすいのが、火災現場から離れた場所で停止してしまった場合だ。

一つの実験を紹介する。

地下空間シンポジウム論文・報告集 [道路トンネル内の火災時における避難行動に関する実験的検討] 実大トンネル実験施設
実大トンネル実験施設
避難開始時間の実験概要図
避難開始時間の実験概要図
火皿による模擬火災の状況
火皿による模擬火災の状況
避難開始実験時の状況
避難開始実験時の状況

画像引用 | 同資料

この実験では、トンネル内で模擬火災を発生させ、トンネル内の各地点の停止車両にいる利用者が避難を開始するまでの時間を計測している。
実験後に行われたアンケート結果に着目してみよう。参加者に対して、「避難を開始したきっかけ」を尋ねている。

避難開始のきっかけは、「他の被験者が避難したから」、「煙が見えたから」の回答数が比較的多く、それぞれ全体の約4割を占めていた。ケース5は火災を直視できることから「その他、何か異常を感じたから」が最も多かった。また、車両毎に整理した結果では、A車両で「その他、何か異常を感じたから」が最も多く、B車両、C車両で「他の被験者が避難したから」が多い結果であった。

 

なお、別途の質問で避難を開始するまでの時間の不安や疑念の内容を記述方式により回答を求めたところ、ほとんどの被験者がトンネル内に煙が発生していたことによりトンネル内の前方で火災が発生していることを認識あるいは感じ取っていたものの、前方が見えないために状況が把握できないことによる不安感や周囲の車両の人の動きなどを気にしつつも、避難をするべきか、いつ避難をしたらよいのかなどを迷っていたことが分かった。

いかがだろうか。
「なにか異変が起きていることはわかるものの、その異変が特定できない状況においては、人は行動するまでに時間がかかる」ことが、アンケート結果によって示されている。
「目の前の車から出火した」というように、一見してわかる異常事態のほうがかえって迅速に退避行動を起こせるのだ。
「渋滞列の前方でなにか異変がおきているようだ」という曖昧な状況こそが、災害時に度々問題視される「同調性・正常性バイアス(思い込み)」を強く働かせてしまう。

【日本赤十字社】「不安が見えなくなるメガネ」


同調性・正常性バイアスは誰にでも起こりうる現象だ。
「バイアスは起こるもの」という前提のもとで、被害を軽減する方法を検討することが現実的ではないだろうか。
例えば、適切な装備品の力を借りれば、避難の遅れをカバーすることができるかもしれない。
薄暗いトンネル内部を安全に移動するための高輝度フラッシュライトや、迫る煙や有毒ガスの中でも冷静に行動するための防煙マスクなどを、1セット車両に備えておくことを推奨する。

防煙マスクの車載例
防煙マスクの車載例

再三となるが、トンネルのような閉鎖空間では煙や有毒ガスの拡がる速度は恐ろしく早く被害は大規模化しやすい。
トンネル火災から生存するためには煙に巻かれないことが大原則だ。
くれぐれも「車の中にいれば安全」という思い込みはもたず、速やかに避難を開始してもらいたい。  

あなたが慌てずに正しい対処法をとることで、事故全体の被害軽減に繋がるかもしれない。
運転の頻度に関わらず、正しい知識を持って快適なドライブに臨みたいものだ。

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