BCPコラム

傷病人搬送の実情

応急手当としての搬送

傷病人の搬送は、一見難しいことのないように見えるかもしれませんが、怪我の手当などと同様に、正しい知識が求められる重要な措置のひとつです。

まず第一に、どんなに慎重に運んでも、必ず負傷者に動揺を与えてしまうため、ある程度の危険を常に伴うという点が挙げられます。
また、搬送法を誤るとかえって悪い結果になることもあります。さらに傷病人が首を痛めている場合などは、無理に移動をすることは厳禁とされています。

そのため、非医療従事者(民間人)が傷病人を発見した場合には、無理に場所の移動や傷病人の搬送はせず、その場で応急手当を行い、救急隊を待つことが原則となっています。

東京消防庁HP
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/inf/bfc/instructor/cp11/index.html にも以下の通り記されています。

  • ・傷病者を搬送する前に、まず必要な手当を行います。
  • ・傷病者に最も適した体位で搬送します(傷病者の希望する体位が原則です)。
  • ・動揺を極力防止する方法で安静に搬送します。
  • ・搬送は安全に確実に行います。
  • しかしながら、その場が安全でなく、応急手当を行うのに支障がある場合には、その限りではありません。

大規模災害時における搬送

特に、大規模地震などの災害発生時には、余震による建物倒壊などの二次災害のリスクがあるため、現場に留まっていてもよいのかを判断し、救急隊の迅速な到着が望めない場合には、周囲と協力し、直ちに安全な場所への移動、搬送が求められます。

搬送の方法には、道具を使わない「徒手搬送法」と、担架などの搬送用資機材を用いた「担架搬送法」の2種類があります。

「徒手搬送法」は、すぐに実施できる反面、傷病者にとって負担が大きく、症状によっては危険を伴う方法です。
緊急性が高い場面や、ごく近い距離の搬送、狭い通路や階段などで搬送用資器材が活用できないときにのみ用いることが望ましいとされています。

また、傷病者を抱える、持ち上げるといった動作により、搬送する側の人間の負傷にも注意が必要です。
自分の腰に負担がかからないよう、下半身の筋肉を使って持ち上げるなど、身体の使い方の工夫が求められます。

一方、「担架搬送法」は、十分な人数を配置し、適切な方法で搬送を行うことで、傷病者の負担を比較的少なくすることができます。
搬送者は必ず1人の指揮者を設定し、歩き出しや停止時には指揮者がこれを合図します。
また、傷病者が不安を感じることがないように、移動の際には声掛けを行い、症状の変化を常に確認するなど、搬送者は役割を分担します。

以上のことから、現場の状況や環境(協力者・資材の有無)、傷病者の状態(反応(意識)の有無)・負傷部位などを把握し、傷病者と搬送者の両者にとって、より安全で確実な搬送方法を選択することが求められます。

担架搬送の問題点

スポーツの大会などで、負傷した選手が担架で運ばれていく光景はお馴染みかもしれません。
担架搬送法では、傷病人の乗せ方から担架の降ろし方まで、基本のやり方が細かく定められています。
また、安全面を重視して、四人一組で搬送にあたることが原則となっています。チームで息を合わせて協力しなければならないという点でも、応急手当の中でも訓練の必要性が高いといえるでしょう。

実際に担架搬送を経験してみると、まずは生身の人間の重さに驚くかもしれません。
訓練での短い移動距離ならまだしも、中〜長距離の搬送は困難なことがわかります。
また、大規模災害時には多数の傷病人が発生します。現場から数十メートル離れた救護所まで、往復を繰り返すことの非現実的さは、人員や資器材に乏しい民間の防災における、大きな課題の一つです。

この課題を解決するため、近年では、既存の担架をストレッチャー化させるキットを導入する企業や行政が増えています。
これにより、搬送人員を削減し、より少ない労力で、安全で迅速な搬送が可能となります。
主に屋内での使用を想定されている医療現場用のストレッチャーとは違い、屋外の荒れた路面でも搬送時の振動を抑えられる、大口径・ノーパンクタイヤのものが人気を博しているようです。

もちろん、ストレッチャーの操作、走行時にも注意点は多々あり、原則として二人一組で安全に配慮するなど、傷病人の苦痛、不安を和らげることが重要な点は変わりありません。

搬送法は上級救命講習で学べる基礎的な項目ですが、平時と大規模災害時ではその目的が若干異なるなど、臨機応変な対応が求められる措置のひとつです。
正しい知識の元、実地訓練を継続的に行い、不断の自体に備えることが大切です。

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